【ジャズボーカルちょっとトーク】ジャズボーカルと、歌謡曲・ポップス・ロックボーカルの違いについて

ジャズボーカルと、ポップスボーカルの違い

こんにちは〜、お久しぶりです。ジャズ/ボサノバボーカル科講師 鈴木智香子でーす。

今日は、「ジャズボーカルとポップス(J-Popも含め)やロックのボーカルって、どこが違うの?」という疑問に、私なりのご説明をさせていただきたいと思い、ペンをとりました(いや、とってないです)。

 

体験レッスンにお越し下さる方の中には「以前はバンドでJポップやロックを歌って(演奏して)いました」「カラオケで歌うのが好きです」という方もいらっしゃいます(まぁ大抵、体験レッスンにお越し下さるのは人前で歌なんか歌ったことのない方のほうが圧倒的に多いですが)。

 

それが何かのきっかけがあり、次の趣味としてジャズボーカルを始めてみたいと思い立ち、こちらの教室の扉を叩いて下さるのですね。偶然とはいえ、鈴木サキソフォンスクールを見つけて下さって、本当に有難いことです。 そこで、必ず体験レッスン等で質問があってお話させていただくことになるのが、「ジャズボーカルと(J)ポップス、ロックボーカルの違いについて」です。

 

発声の仕方、リズム等のテクニカルな部分の違いに関しては、実際のレッスンの中でお話させていただくとして、今日は、根本的な違いについてお話させていただきたいと思います。

 

お手本に従う歌謡曲・ポップス・ロックボーカル

日本の歌謡曲、ポップスやロック(洋楽を含む)を歌う時は、必ずお手本(元歌)に従います。例えば、『天城越え』(これは演歌ですけど)を上手に歌いたかったら、必ず石川さゆりの歌を聴いて勉強しますし、『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』をバンドで演奏したかったら、当然ローリング・ストーンズを聴きますよね。それが完コピバンドであれば、どれだけ『本物』達に近づけるか(似せるか)に、皆、心を砕くわけです。

 

 

しかし、その趣味には限界があります。限りなく本物に近づく事は出来るかもしれませんが、『本物』自体にはなれないのです。つまり、一生懸命に声を似せたり、サウンドを真似したりして頑張れば、ミック・ジャガーみたいな歌声やステージパフォーマンスができるかもしれないけれど、一生、ミック・ジャガー本人にはなれないのです。もし万一、ホントに一生を捧げて頑張った結果、万一ミックを超えてしまったことになったとしても、そこで既にローリング・ストーンズの完コピバンドではなくなってしまうのですね。

結局お手本が存在しないジャズボーカル

それではジャズボーカルはどうでしょう。ジャズボーカルでは、1つの曲(当時、若しくは少々前の時代の流行歌、いわゆるスタンダードソング)を題材として、同時代のシンガー達がこぞって歌い、録音して発表します。なので、歌手達は如何に他の歌手とは違った雰囲気の歌を創り上げるかという発想で、その歌に取り組みます。その際、もちろんテンポやリズムといった編曲(アレンジ)の工夫もしますが、結局は、自分の持っている歌声、音楽性、つまり個性で他の歌手との差別化を図ることになります。

 

ジャズボーカルを趣味として始める場合、もちろんこのようにして製作された様々な音源を聴いてお勉強することになるのですが、これらの作品は決して「この曲はこう歌うべし」という意味の『お手本』ではなく、それぞれの歌手達が残した『一例』や『一結果』にすぎないのです。そうなると私達にとっては、それらの音源は「ふーん、こういう歌い方をする歌手がいるのね」と、参考程度にとどめておくのが一番良いことになるわけです。

 

 

というわけで、『ジャズボーカルには、完全なお手本が存在しない』し、共通の題材の歌(スタンダードソング)を歌うからこそ『他のシンガー達と同じだとつまらない』のです。

貴方が歌う『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』を!!

ですからジャズボーカルにおける聴き手の基準は、ただ単に「(誰が歌っていても構わないので)『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を聴きたい」のではなく、「○○○の歌う『フライ・ミー…』が聴きたい」となるわけです。そこに自分の名前が入ったとしたら、素晴らしいと思いませんか?(自分の歌った歌を「○○○(有名ジャズ歌手名)みたいだね」と言われたら、それは決してほめ言葉ではないので喜んではいけません。ジャズでは屈辱(!)に相当するわけです)

 

更に言うと、ジャズボーカルはお手本自体が存在しないので、曲の中で『失敗』もありません。完コピバンドやカラオケは、予定通りにいかなければミスをした、とみなされてしまいます。紅白歌合戦で歌手本人が歌詞を間違えても話題になるくらいです。

 

でもジャズボーカルは、例えば『歌詞を忘れてしまい、ダバダバ適当にスキャットをしてしまった』、というようなハプニングがミスだと思われずに『演出のひとつ』と、好意的にみなされたりします。自分基準で歌うのだから、ミスは存在しないのです。予め準備しないで(練習したものを本番でそのまま再現しないで)、その時の演奏の成り行きや、即興を大事にするジャズならではの面白い特徴だと言えるでしょう。

無限に広がる趣味、ジャズボーカル

そんなわけで、ジャズボーカルという趣味はどこまでも無限大に広がっていきます。それはゴールは『お手本』の中でなく、自分の中にあるからです。そして『自分の個性って何だろう?』という疑問が、やがて『…自分とは何者だろう?』になってくると、まずゴールはない!と断言しても良いかもしれませんね。

 

そんなわけで、ジャズボーカルはいつまでも長く続けられる奥深ーい趣味のひとつなのです!